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コラム <1998−2008 松坂世代・10年の軌跡>

第3回 ソフトバンク和田
ソフトバンク和田毅、壁の向こう側/上

浜田高時代の甲子園で力投するソフトバンク和田浜田高時代の甲子園で力投するソフトバンク和田

 ソフトバンク和田毅投手(27)はマウンドの上でもがいていた。7月6日のロッテ戦。何かを模索するように、腕の振りを何度もチェックする。7回を投げ5失点。自ら描く理想の投球とはほど遠い内容だったのだろう。チームの連敗が止まったというのに、試合後、和田に笑顔はなかった。

 それから3日後、和田は今の状態を素直に話してくれた。「調子はあまり良くないですね。今シーズンはまだ1度も納得できる試合がありません」。その時点で、すでに7勝を挙げている彼の口からは意外な言葉が返ってきた。
 そして彼は続けた。

「プロに入って初めての壁。なんだろう…。横に長い壁。高い壁って感じじゃないんです。跳び越えられそうなんだけど、抜け道がない。正面からぶつかるしかないというか」。

 「横に長い壁」。独特の表現で現状を示した。「この壁を越えれば、新しい世界が見えてくるんだろうなと思います。ちょうど大学1年の時みたいに」。悩んではいるが、焦っている様子ではない。むしろ、その瞬間が来るのを心待ちにしている様子さえ感じさせた。

 今回、松坂世代の特集をする上でなぜ、和田を人選したか。早大時代に彼を取材したことがあり、接点があったということだけではない。大学時代に大きく成長した姿を間近に見て、さらにプロでもエースと呼ばれる投手に進化した。高校卒業後10年間のプロセスを知りたかったからだ。

 大学入学時、彼はどこにでもいる平凡な左腕投手だった。浜田高3年夏に甲子園でベスト8入りしたが、直球の最速は130キロ程度。小柄で華奢。レベルの高い東京6大学リーグで活躍できるとは、ほとんどの人が思っていなかったに違いない。ところが、1年秋、彼は突然変異した。球速が10キロ以上も増した。元々ボールの出どころが見づらい独特のフォームだったが、ストレートが140キロを超えると、バッターはキリキリ舞いし始めた。秋にリーグ戦デビューを果たすと、2年春からはエースとして投げまくった。その後の活躍は周知の通りである。

 当時の取材ノートを開いてみた。和田が常に意識していたことは、先発して9回を投げ抜くスタミナを維持することだった。信頼するトレーナーをはじめ、周りから言われたことをまずは素直にやってみた。自分に合わないことは捨てるが、合えば必ずモノにする。自分に不足していることを素早く察知し、補うための努力は惜しまなかった。一番大きかったのは、一定期間、徹底した走り込みをしたことだろう。下半身が鍛え上げられたことで、突然の変化が訪れた。「本当に、あれっ!?って感じだった」と当時の彼は話している。

 開眼した瞬間の喜び。それは、本人にしか体得できない特別なものなのだろう。その瞬間がいつ訪れるなんて誰にも分からない。でも、いつかできる。日々考えながら、これが一番いいなと思えるものを積み上げていく。そうやって気長にやるしかない。続けていれば、「横に長い壁」を越えられる日がやってくる。それを大学時代に経験して知った。だからこそ、今、焦らずに新たな壁と格闘しているのだろう。(続く)

◆和田毅(わだ・つよし)1981年2月21日生まれ、島根県出身。浜田高時代2、3年夏に甲子園出場。3年時はベスト8入り。早大に進学し1年秋のリーグ戦でデビュー。2年春からエース格となり、通算27勝。4年春秋のリーグ優勝に貢献し、江川卓(法大)の持っていた通算奪三振記録を更新する476三振を奪った。02年ダイエー(現ソフトバンク)に自由獲得枠で入団。03年14勝を挙げリーグV、日本一に貢献、新人王に輝く。179センチ、77キロ、左投げ左打ち。家族は夫人と1女。今季推定年俸2億2000万円。

2008年8月02日 11:01


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