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2007年9月11日

真の「天王山」知るオレ流監督

 8月21日、落合監督は東京ドームのロッカーへと続く薄暗い通路を歩きながらいさめるように言った。
 「おまえら、天王山という言葉の意味を知っているのか? 144試合目で優勝が決まるというならいくらでも使えよ。でも、まだ30試合以上もあるんだぞ。言葉を扱う仕事なんだからもうちょっと考えろ」。

 敵地で首位巨人との3連戦。マスコミはこぞって「天王山」だと盛り上げた。これにクギを刺したのだ。

 こう言われたら黙っていられない。早速、調べた。天王山(てんのうざん)とは京都府にある山で西側の山腹が大阪府と京都府の国境をよぎっている。そのため天正10年(1582年)に織田信長を討った明智光秀とそのあだ討ちを果たそうとする羽柴秀吉が戦った山崎の戦いでは、この山を制した方が天下を取るとして「天下分け目の天王山」と表現されたという。

 翌22日、東京ドームの通路。こっちから仕掛けた。

 「監督、天王山という言葉の意味ですが…」。

 「そんな言葉、本当はないんじゃないのか?」。

 「いえ、京都の山なんです。秀吉と光秀が…」。

 そこまで言うと、歴史が好きな落合監督はすべてを理解し、にやりと笑った。

 「ああ、山崎の合戦か。そうか。だったら余計に(天王山という言葉を)使うなよ。まだそんな段階じゃないんだろう?」。

 本当の修羅場を経験している人間は勝負をあせらない。現役時代、落合博満は真の「天王山」を経験している。

 ロッテ時代、シーズン終盤のある試合で、無安打に終われば3冠王を逃すという試合があった。自宅を出発する時、落合選手は信子夫人に言ったという。「オレ、きょう打つから。いっしょに行こう!」。球場までのタクシーに同乗した夫人はスタンドで観戦していると目の前で打って、3冠王を確定させた。

 さらに94年10月8日。「国民的行事」として伝説になった中日対巨人の優勝をかけたシーズン最終戦(ナゴヤ球場)。巨人の4番・落合は先制本塁打を放ち、チームを優勝に導いた。

 「ああいうのを本当の天王山というんだ。まだまだ決まらないよ」。10日現在チームは首位阪神に1・5ゲーム差の2位。落合監督の姿勢は不変だ。何でも「天王山」と表現され、大袈裟があふれる時代にあって決してペースを乱さない。巨人より、阪神より残り試合が多いことも自信の源だろう。オレ流指揮官はひょっとしたらシーズン最終戦のドラマすら見据えているのかもしれない。

(鈴木忠平)


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伊藤馨一(いとう・けいいち)
 岐阜県出身の34歳。97年オフから中日を担当。99、04、06年と3度の優勝を知っているのがささやかな自慢。自分の目で見て自分の耳で聞いたものをまず信用する。まず「観察」してからものを言うというのがモットー。
鈴木忠平(すずき・ただひら)
 00年に入社後、01年に中日を担当。その後アマチュア競技、ボクシングなどの担当を経て04年オフの落合政権誕生時から再び担当に。幼少時は大の西武ファンだった。埼玉県生まれ、29歳。
益田一弘(ますだ・かずひろ)
 広島県生まれの31歳。00年に入社して格闘技、相撲、サッカーを取材。「突撃取材」でボクシングの世界王者とスパーリングして3度ダウンした経験も。06年11月から中日担当。

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