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2007年5月05日

松坂の初球カーブに福留は

 ちょっと古い話になるが、4月12日のことだ。珍しく自然に目が覚めた。遠征先・大阪市内のホテル。アラームをセットした午前8時より5分早くベッドから出てテレビの電源を入れた。画面に映し出されたのは米ボストン・フェンウェイパーク-。そう、早起きの理由はレッドソックス松坂とマリナーズ・イチローの初対決だった。

 アメリカのファンは松坂の登場を総立ちで迎えた。イチローが打席に入った。眠気は吹き飛び、昨夜から続いていた興奮はピークを迎えた。初球に何を投げるのか? 興味はこの1点に集中していた。ただ次の瞬間、その熱は急速に冷めていくことになる。

 初球、カーブ-。

 イチローは見逃した。結局、投ゴロに倒れたのだが、記者はこの初球以外はほとんど覚えていない。実は個人的に松坂はストレートを投げると思っていた。ボール球にする。変化球を投げる。事前にいろいろな報道があったが、すべてはポーズで、本番ではイチローとの暗黙の了解で真っ向勝負を挑む-。そんなロマンを描き期待していた。それだけに力が抜けた。

 午後3時30分、脱力感を抱えたまま甲子園にいた。阪神戦に備えて中日の選手たちが練習を始めていた。福留がいた。WBCで松坂やイチローと戦友だった男はあの初球をどう思っているのか。聞きたかった。

 「松坂対イチローは見たの?」
 「見るわけないじゃないか。だってオレは(連戦で)疲れているんだよ(笑)」。
 「初球がカーブだったんだけど…」。
 笑っていた福留が、ここから語気を強めた。
 「いいじゃないか! 何を投げたって! それ(ストレートを要求すること)は打者のエゴだよ!」。

 ハッとした。「打者のエゴ」という言葉はそのまま「記者のエゴ」に聞こえた。選手はみんな生活をかけて戦っている。福留が阪神戦に備えて睡眠をとっていたように-。投手は打者を抑えなければグラウンドから去らなければならない。生き残るか、去るか。そんな戦場に観る側のロマンチシズムを強いるのは間違いなくエゴだ。

 あの初球をめぐって論争は絶えない。ただ今は思う。怪物松坂がロマンの入り込む余裕もないほど勝敗に必死だった。そう考えるとあの126キロのカーブが妙にすごみを増してくる。

(鈴木忠平)


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伊藤馨一(いとう・けいいち)
 岐阜県出身の34歳。97年オフから中日を担当。99、04、06年と3度の優勝を知っているのがささやかな自慢。自分の目で見て自分の耳で聞いたものをまず信用する。まず「観察」してからものを言うというのがモットー。
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 00年に入社後、01年に中日を担当。その後アマチュア競技、ボクシングなどの担当を経て04年オフの落合政権誕生時から再び担当に。幼少時は大の西武ファンだった。埼玉県生まれ、29歳。
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