2006年9月05日
球児の速球打ち砕いたオレ竜野球の気骨
オレ竜が藤川を打った。8月30日阪神戦(甲子園)1点ビハインドの9回裏2死走者なし。井上が152キロの“火の玉ボール”をバックスクリーン右へたたきこんだ。
「速い球を打つにはそれなりの前段階がある。準備ってものがあるんだよ。それに『わかっているのに当たらない』とかよく平気で選手が言うよな! 引退した選手ならまだしも、現役でまだ対戦するんだろう。オレだったら口が裂けても言わない」。
井上の同点弾を見た時、1カ月前に落合監督がこう言っていたのを思い出して当日の紙面で紹介した。ただ、このオレ流・藤川論にはまだ続きがある。あれは8月上旬、東京-。「では監督なら打てますか?」。その質問にこう答えた。
落合監督 昔はあれより速いピッチャーはたくさんいたんだ。江川? それだけじゃない。村田兆治なんか、あれより速いストレートにものすごいフォークがあった。それでも打たれていたんだ。今は全体の打撃練習は増えたけど、個別でやることが減ったからな。
あの投手を打ちたい。あの球を打ちたい。個と個のぶつかりあいだった昔のプロ野球。特にパ・リーグではそんな練習が当たり前だったのだろう。ロッテ落合が、阪急山田のシンカーを狙い打ったように。ただ組織と組織の色合いが強くなった現代では特定の個人にしぼった練習は少ない。それを落合監督は「技術の問題」と言ったのだろう。そしてもう1つ-。
落合監督 昔はスポーツができるやつはみんな野球をやったんだ。今はサッカーとか、陸上とか、他のスポーツにもいくだろう。その影響もあるんじゃないか。
現代のプロ野球選手の運動能力は低下しているのではないか? いつしか打撃論は、スポーツ論に発展していた。
野球が変化し、スポーツが多様化し、相手の力を潔く認めることが美徳とされる時代になった。それでもオレ竜は藤川を打った。井上は阪神ファンの「あと1球!」のコールで魂に火がついたという。いつの時代でも勝負に1番大切なもの。それは落合監督や、井上に象徴される気骨ではないだろうか。
(鈴木忠平)
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- 伊藤馨一(いとう・けいいち)
- 岐阜県出身の34歳。97年オフから中日を担当。99、04、06年と3度の優勝を知っているのがささやかな自慢。自分の目で見て自分の耳で聞いたものをまず信用する。まず「観察」してからものを言うというのがモットー。
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