2009年4月21日
新球場からまた時は流れる:酒井俊作
野球好きな性分は、いつまでたっても消えないものなのだ。05年に引退した伊良部秀輝氏が現役復帰を目指しているという。日刊スポーツ東京版をチェックしながら、ふと、3年前を思い出した。06年6月、米マリナーズに同行取材したときのこと。ロサンゼルス郊外で伊良部氏がうどん店を経営していると聞き、取材の合間を使って滞在先のアナハイムからハイウエーを飛ばして現地に向かった。
同氏の姿はない。こしのあるうどんを腹に収めたあと、窓口の日本人スタッフに近況を尋ねたら、こう返ってきた。「毎朝、仕込みのときに来られますね。ええ、元気にしていますよ。厨房でもしょっちゅう、シャドーピッチングしていますからね」…。実業家になっても、39歳は投球を忘れることはできなかったということか-。テニスのクルム伊達公子もそうだ。断ちがたい未練、沸き上がる情熱を“再燃”させる生き様もまた素晴らしいと思う。
広島にもまた、現役に意欲を燃やす男がいる。プロ23年目、40歳の緒方である。スタメン出場した4月17日ヤクルト戦。石川の外角球をとらえ、神宮の一、二塁間を破った。今季16打席目での初安打。「やっと1本出たよ。投手がいい投球をしているのに助けられなかった。気は楽になったけど、勝ちに貢献したいね」。通算1500安打に残り2本に迫る1打だった。
1度は引き際を考えていた。07年9月中旬。実は球団に引退を申し入れていた。慰留され、踏みとどまった経緯がある。「なかなか『分かりました』とは言えなかったけど、最終的に、もう1回やってやろうと気持ちを固めた」と話した。白球を追うから、いまがある。喜びも悲しみもすべて一身で受け止めてきた。
広島市民球場ラストゲームだった3月22日阪神戦。終了後、新球場に運ぶ荷物整理の慌しさのなか「複雑だね。22年間、お世話になった球場だからね。何ともいえない寂しさがある。もう明日から来ることはないから…」と振り返った。時はとめどなく流れる。4月16日横浜戦、マツダスタジアムで今季初スタメンを果たした。新球場建設中に訪問し「感動したよ。ここで野球したいね」とつぶやいたこともあった。濃緑のフィールドは、野球を愛し続けた緒方へのプレゼントだった。
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